コラム
ルーマニア便り

第5回

ルーマニアってどんな国???(4・・・PATRU)
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
現在、文化庁の在外研修生として、ルーマニアに演劇留学中!
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
生活をするためには、まず食べる物や生活必需品を買わねばなりませぬ。言葉もろくに話せないとあっては、最初はどんなお店に入るにも勇気とそうとうな気力が要ります。
スーパーのレジのように数字が液晶に映し出されればまだしも、早口で、それも短縮された言い方で値段を言われたなら、まず聞き取れない! 数字の苦手な私としては煙草ひとつ買うのにもぐったりなのであります。

今のルーマニアの物価


通貨単位はLei(レイ)。今現在1ドルが約2万6000レイ。そうとうなスピードでインフレが進んでいます。林檎が1キロ1万2000レイ。パンが3000レイ。絞りたての牛乳を1リットル配達してもらって1万5000レイ。
ゼロを2つとって半分に割ればおおよその日本円になるのでありますが、「1.2.3.4……やったぁ、10まで数えられた!」と喜んでいるレベルの私にとって、いきなりゼロがズラーッと並んでいる値札を見たときは、もう頭のなかはパニック状態。日本のように「万」という位がないので「十×千」「百×千」という数え方。いまだに会計時はすったもんだしとります。

食べるだけなら1カ月3万円ほどでまかなえてしまう。ルーマニア人の平均月収が100ドルだそうで、今深刻なのは暖房費。これがどんどん値上がりしていて、もうすぐ一家庭100ドルくらいになるという話。月収の全部を取られては生活できるわけがない。当然払えない人も出てくるわけで……この冬はどうなってしまうのだろう。テレビのニュースで怒り心頭のルーマニア人のインタビューをよく目にします。

しょっぱすぎたチーズ

でも、生活が苦しいことと、生活を楽しむすべを知らないということとはイコールではありませぬ。こちらに来てわずか2カ月ほどのあいだにいろんなことを教わりました。

買い物は市場や食料品店に行ってキロ単位で売ってもらうのでありますが、チーズを買ったときのこと。1キロは多いと思った私は身振り手振りで何とか500グラムにしてもらった。それでも多い。気力を使い果たしたうえにさらに交渉するのはしんどい。「まあ、食べ切れるかな」そう思って家に戻ってきて味見。ところが塩辛すぎてとても食べ切れない。
後で聞いたらお水につけて塩を抜いたりするんだそうだが、そんなことは知らないものだからどうにも手が出ずに冷蔵庫の中で眠らせていた。案の定カビだらけ。仕方がないからゴミ箱へ。

ある日、お世話になっているルーマニアのママに「あのチーズはどうした? 作り方を教えてあげるから」と言われ、「カビが生えちゃったから捨てたの」と言ったら、しばらく間があったあと、彼女はとてもゆっくりと「そういうときは窓から撒いて鳥にあげなさい」と話してくれた。

私にしてみれば、ひとりでは食べ切れない量の食材を買わざるを得なくて、外食になってしまうこともあったりと、食べ物を粗末に扱うという意識はもちろん、ない。でも物の豊かな日本に育って、仕方ないからという理由だけで簡単に、たくさんの物を捨ててしまっているんだということを意識させられた一瞬でありました。
「そりゃそうだ。捨てるんだったらほかの生き物に分けてあげればいいだけの話だわなぁ」

野犬がほんとにたくさんいる。でもあまり痩せこけてもいないし、さほど凶暴でもない。自分が食べるだけでも大変なのに、公園で若い男の子や女の子が野良犬に食べかけのパンを与えていたり、年金生活者らしいおじいさんが毎日野良猫にミルクをあげていたりする。

こちらの食材には防腐剤やら農薬は使っていない。それらは高くて使えないのだそうだ。というわけでパンなどすぐにカビが生えてしまう。それ以来、食べられなくなってしまったパンや、気がつかずに買わされた腐りかけた果物など、今までゴミ箱に即直行していたものを、どうしたら無駄にしないで済むのかと、ふっと考えるようになった。

窓を開けて鳩やすずめに分け与えたり、新しい調理方法を編み出そうと苦心惨憺してみたり。東京での生活ではまずあり得ない、鳥がやって来てついばんでいるのをしばし眺めたりしてる自分の姿に、苦笑しちゃったりするのでありました。

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芝居のチケットの半券。よく見ると86年、15レイと印刷されている。以前のものを現在も使っているようである。この日の芝居は2万6000レイ〜6万レイ。物価の上昇率に驚かされる
 
マンダリンとレモン。それぞれ日本円にすると1キロあたり100円程度ということに なります。かなり甘いですよ