コラム
ルーマニア便り

第6回

ルーマニアの中の東洋人
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
現在、文化庁の在外研修生として、ルーマニアに演劇留学中!
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
中国人と日本人

さて、ルーマニアに在住している日本人は全部で何人なのか…。ルーマニアの「日本人会」というものに入っていない私には正確な人数は記せぬものの、とても少ないことだけは確かであります。オペラは別として、現代演劇を観に行ったら客席に東洋人は私だけ、というのもよくある話。

私たちから見てヨーロッパの人種を見分けるのは難しいように、ヨーロッパ人が東洋人の人種を見分けるのも難しいようであります。私が街を歩いていると、すれ違った人々が「中国人か、日本人か」と揉めはじめたりすることも。

さてさて、この「キネーズ(中国人)」と「ジャポネーズ(日本人)」の違いというのはかなり大きなもののようでございます。
日本人というのはこの国ではひどく印象がよろしいそうで。ルーマニアでは1947年の人民共和国制の宣言に伴い、王制が廃止されてしまったという歴史があります。日本は敗戦したにもかかわらず、経済はかなりの勢いで復興し、なおかつ「王」というものが残っている、ということで親近感を持たれるらしい。

「IKEBANA(生け花)」という看板を上げている花屋さんもあれば、剣道、合気道、武士道、空手等々を特集している番組もよく目にいたします。それとアニメ。今のところ早朝には「魔法使いサリーちゃん」を見ることができます。

というわけで、日本の情報はけっこう流れている。一方、中国人というと至極印象が悪いらしい。聞いた話では、以前残虐な事件が続けて起こったらしく、それらに中国人が関係していた、というのであります。真偽のほどは定かではないのでありますが…。

中国人街と呼ばれる一角

「ピアッツァ・ヨーロッパ」と呼ばれている市場! ここはルーマニアの通常の市場とはかなり違う様相を呈しておりまして、中国人が占拠してしまった…と言ってもいいほどの空気に満ち満ちております。おまけにジプシーマフィアからルーマニアンマフィアから何やかや、がすべて集結してしまっておるようでして…。

元ボクサーのルーマニア人も恐れをなして早々に退散するという悪名?高きこの中国人街では、ルーマニア語も英語も通じない。バンバン中国語が飛び交う喧騒のなかで、「言葉はままならずとも商売を成立させちゃうこの押しの強い国民性は…すごいとしかいいようがない…」と唖然と周りを見渡してしまうのであります。

ちなみに、このなかにある中華料理屋のラーメンはめちゃくちゃうまいのですがね。あまりにデンジャーすぎて撮影などもってのほか! ということでお見せできないのが残念であります。

イェゥ・スントゥ・ジャポネーズ(私は日本人です)


街を歩いていて、からかい半分であったり、時には悪意に満ちた言い方で「キネーズ」と言われることがあります。
<どうだっていいや>と思えるときもあれば、思わず立ち止まって振り向いてしまうことも…しかし、言い返すときに何と言うか…これが悩みどころなのであります。

気の利いた台詞のひとつも言ってだなぁぁ、相手が思わず「参りましたっ!」と、笑いのひとつも出てくるようなら立派なのであるが、私の語学力ではそうもいかず。いちばん簡単なのは「スントゥ・ジャポネーズ(日本人よ)」。がしかし、これを言うことにある種の戸惑いがあるのである。

正直な話、日本人であるということに誇りを持っているわけでは…決して、ない。「キネーズ」と言われて思わず「ジャポネーズ」と言い返して“落ち着いて”しまう自分自身に対してため息が出てしまうのである。それがどういったものなのかは、汲み取って読んでいただくとして…。

日本を離れて暮らすということは、日本人であるということを日常的に意識させられてしまう。<自分は何者なんだろう>と芝居をしてきた私にとって、簡単なひと言「スントゥ・ジャポネーズ」は頭の中がグラグラ揺れるひと言なのであります。

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必死に歩いていた最初の頃は気づかなかったが、最近はふっと上を見上げることができるようになってきた。そんなときに気がついた「IKEBANA」の看板
 
近所の普通の市場にて。規模としては中くらい。最初は鶏だけのはずだったのだが、「俺も撮れ」というわけで…人が集まってきちゃって、「俺も、俺も」…最後はえらいことになった…