コラム
ルーマニア便り

第8回

賄賂とお歳暮の違いってなに??
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
現在、文化庁の在外研修生として、ルーマニアに演劇留学中!
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
こちらへ来た当初、「この国は人間関係で成り立っているようなとこもあるからね」という話を聞きましが、それがどういったことを指すのか、想像してはみるものの、表面的な部分だけで、まだよくわからんというのがホントのところ。お互いが助け合って暮らしているといういい意味もあり、日本人から見れば<えっ!?>ということもある、という程度の理解かなぁ。
 
ナッシュというしきたり

日本には無いしきたりに、<ナッシュ>というのがあります。これは結婚式の仲人さんみたいなものらしいのだけれど、誰が自分のナッシュになるのかは、小さいときに決められるのであります。

このナッシュ、下手すると親兄弟よりも絆が強かったりするようで……たとえば自分のナッシュが仕事で出世したといたします。すると、自分も優遇してもらって引き上げてもらうとか、まあ、いろいろ。何かと面倒を見てあげるというのがナッシュというものらしい。無精でめんどくさがりの私には、絶対務まらない役回りであります……いいナッシュ?がつくかどうかで自分の生活も大きく変わるということか?

それって賄賂ってやつ??

友人を見送りにオトペニ空港へ行ったときのこと。日本人は比較的信用されているのか、おとなしい人種だと思われているのか、トランクを開けて調べられるということはまずない。しかし、友人は全部のトランクを開けて入念に調べられた。どうやら後ろに中国人がいたということがあったようで。

その私たちの後ろに並んでいた中国人、私と数十センチと離れていないところで、「やぁ、何とか君っ!」てな感じで親しそうに握手を求める。税関の人間も「やぁ!」と手を差し伸べる。握手を交わしているその手のひらにはちゃっかり、折りたたまれた10万レイ札(430円くらい)が。慣れたもんである……。

時代劇の悪徳商人が菓子箱に小判を入れて悪代官へ差し出すように、日本にだって賄賂はある。ただ、賄賂という響きにはダーティーなイメージがあって、公然とやられるのを見ると、刷り込まれたイメージなのか <密室でこっそりとやるのが正しい姿だっ> なんて思ってしまう。

また、あるときのこと…私の滞在ピザを取得するにあたり、知人に手続きのために動いてもらった。あとで、請求書をもらったけれど、正規の手続き料金のほかにしっかりウィスキー代がついていた。もちろん違法なことはしていないらしい。お中元やお歳暮のようなものか、と解釈したのだが。
当然のように書かれてる「Scotch whisky」の文字に一瞬、日本人的感覚で「えっ? なぜゆえに??」

忘れられない美しい夜景

はたまた、私が友人と“カルパチアの真珠”と呼ばれているシナイアに遊びに行ったときのこと。知人の知人で初めて会う、というルーマニア人がいろいろもてなしてくれたのだが……。

彼は私たちを車に乗せて、夜の山道をひた走りに走る。言葉も解からず何がなにやら……ただただついていくしかなかった私たちが到着したところは、どうやら以前チャウシェスクが使っていて、今は一般人は入れない、山頂のメッチャ豪華な別荘であった。そこから見た夜景は唖然とするくらい美しいものでありました。

知り合いの多い彼は、入り口でガードマンたちと交渉。真っ暗な中で重々しくゲートが開いたときは何がなにやらわからなかったのでありますがね。おそらく、生活は大変だろうなぁと思われるシナイアの知人が私たちをもてなそうとするその姿は、愛しさに駆られるほど真摯でありました。

思いもかけず見ることができた「開いた口が塞がらない」ほどの美しい光景を思い出すとき、<人間関係で成り立っている>という国に生きている、こすっからさとは縁遠い、人の好い繊細なそのおじさんのことが頭をよぎるのであります。

その国の文化や風習や国民性や……エトセトラ、を<いいの悪いの>と判定することは、どうやら今の私には興味がないようであります。その気候風土のなかで培われてきた“もの”が、今そこで生きている人たちを形作ってる。それらの違いに <えぇっ?>と感じる今の私も別の土地で形作られた。
異文化のなかで、ちょこっとつまづいちゃう出来事に遭遇したときに自分が揺れる。そんな積み重ねが、幼ない私の心を少しは<大人>にしてくれる、のではないかいなぁ……。

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レストランで遭遇した結婚式。関係ないけど一緒に祝っちゃった。この人は誰かのナッシュでその人はまた他の誰かにナッシュになってもらってる……家系図みたいにナッシュ図でネットワークが組めそうだなぁ
 
シナイアの住人の誰もが「ぜひ、春と夏に来てくれ」と口を揃えて言う。緑が美しい季節になったら、きっとまた来るからと約束してきた。この写真はペリショール城。この奥にもチャウシェスクの別荘がある。でも、私たちが行ったのはまた違うところで、観光ガイドには載ってないの。ちょっと自慢??
  
ブラショフという街まで私たちを送り届けようと車を飛ばす、シナイアの愛しきわが友人