コラム
ルーマニア便り

第11回

もうっ! お互い言いたい放題なんだからっ!…サッカー観戦記
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
現在、文化庁の在外研修生として、ルーマニアに演劇留学中!
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
ヨーロッパといえばサッカー!?
というわけでイタリア対ルーマニアの試合見物と相成った次第でございます。前回イタリアに負けたということもあって、そうとうオーバーヒートするであろうと巷の噂であったこのカード。暴動でも起こってくれるのではなかろうか!と怖さ半分、ハプニングを期待しつつお出かけ。さてさて……。
<セミンツェの殻> 吐き出し放題の客席

6時半に試合場へ。席につくまでに <おいおいフル装備かい?>という警官たちによるボディーチェックを受けること2回。彼らの周りには無造作に放り投げられたペットボトルの残骸が山のよう。持ち込み禁止なのである。周りに街灯はなく、薄暗がりのなかの警官たちとペットボトルの山は、試合場へ着くまでのぬかるんだ泥道の記憶と重なって、なんとも言えぬ猥雑さをかもし出しておりました。

客席へ入ってまたもや唖然。通路も椅子もセミンツェの残骸だらけ。セミンツェとは種のことで、ひまわりの種が一般的。塩水に漬けてからオーブンで長い時間かけて焼く。おやつ代わりにみんなよくこのセミンツェを食べてる。街中のいたるところで、小さなカップで1杯、2杯てな量り売りもしてる。もちろん、ここにも手提げ袋にセミンツェを入れて売り歩いているおじさんがいた。その種を口に放り込んで殻だけペッと吐き出す。ゴーイングマイウェイの彼らには吐き出した殻が他人に与える不快感なんて関係ないのである!

と怒りたいところだが、ルーマニア人たちは、そんなことは意にも介さず、殻をパッパと払って何事もなかったかのように座ってる。彼らは別に不快だと思っているわけではない、ということか……。私はといえば、座る前に泥だらけ、セミンツェの残骸だらけの椅子をティッシュで拭く。ちょっと立ち上がって、しばらくして座ろうとすると、またもやいつの間にかセミンツェの残骸が……。何度か繰り返してるちに<はぁ〜もう、どうでもいいやぁ>。

お互い言いたい放題怒鳴りあってる客席

で、試合開始は9時半。試合が始まったら始まったで、前のほうでは、ずっと立っている一団がいる。ということは後ろに座っている人たちも立たなくちゃ前が見えない。で、なぜか私たちのエリアだけみんなず〜っと立ちっ放し。

「座れよっ! 前が見えねぇじゃぁねぇかっ!」
「前のやつらが立ってるから、俺も立ってんだっ!」
「おい、そこのめがねっ! おまえだっ! 座れっ」

で、コーラの紙コップがその人めがけて飛んでくる。でも、<座れ>と怒鳴ってる本人も自分が立ちたいときには、後ろの席のことなんてまるでお構いなし!

で、まあ、好き勝手に怒鳴りあってる。最初は腹が立っていた私も、試合開始から終了まで、これまた何度となく繰り返される彼らのやり取りを眺めているうちに <な〜んて、勝手なんだろう…>と、あきれるのを通り越して笑いがこみ上げてきた。
街中で、見知らぬ人同士の言い争いを目にしたり、いろんな人の経験した話などを耳にしたりするんだけれど、面白いのは、自分が間違っていようと何だろうと、とにかく言いたいことを言いまくる。で、ひととおり言い合ったあと、今度はほかの見知らぬ人相手に自分の言い分を喋りまくっている……。日本人同士ではまずお目にかかれない光景である。

夫婦喧嘩も言いたい放題??

ことあるごとに「相手の身になって考えなさいっ」なんていう言葉を聞かされて育ってきたような気がするんだけど、「そこまで言っちゃっていいわけ??」と思う基準が、私たちとかなりずれているようで……。

恋愛なんていい例である。恋をするがゆえに相手が何を感じて、どう思っているんだろうなんてぇことに過敏になる。でも、この人たちの恋愛論って多分、私たちがなんとなくもってしまった美意識とかなりかけ離れているんじゃないかなぁ。
こちらの夫婦や恋人同士の喧嘩もかなり激しいらしい。芝居でもそういうシーンをよく見るけれど、嘆き悲しんでるかと思うと、突然、刃物でも持ち出すんじゃないかという勢いでお互い好き勝手なことを言い合う(この間は拳銃持ち出してたけど)。
かと思うと、次の瞬間、抱き合ってキスして……。大げさに演じてるんじゃなくてそれってけっこう普通のことらしい…の…よねぇ…おもしろい……。
違う気候風土のなかで育ってきた私には、想像することはできても感覚的には理解不能な決定的な違い。

私たち芝居屋が翻訳ものの戯曲に取り組むとき、いくら歴史的時代的背景や国民性や、物語性などを解き明かして、見事に再現してみせたとしても、自分のなかに嘘っぽさ、違和感が残る、という問題にいつもぶち当たる。日本という国で生まれ育ってあがいている今の私たちが浮かび上がる芝居作り……「原作」を、自分たちにとってどこまでマテリアル(素材)にできるか……ということか……。

肝心の試合のほうはというと、イタリアの一方的な試合展開のまま 2対0でルーマニアの負け。この勢いで暴動でも起こってくれるのか??という期待とは裏腹に、あまりにきれいに負けてしまったせいか、あれだけ騒いでいた連中もおとなしく帰ってしまって、なんだか拍子抜け。私はといえば、あまりの寒さと、客席の喧騒のおかげで観戦どころではなく、<ん〜っこの人たちはどんな恋愛の仕方をするのであろう…> なんてお題目にふけってしまった数時間でありました……。
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試合開始まであと2時間。それでも、この熱気…凄いでござる…
 
客席にぶちまけられてるセミンツェの残骸。この会場だけで何百キロ?のセミンツェが食べ尽くされたことになるんだろう…想像つきませんっ
  
<街で見かけた何?これ!シリーズ>これは雑誌屋さん。本屋さんでは本を売っている…当たり前といえば当たり前だけど…雑誌は別なの…なかには店員さん?がひとりだけいる