コラム
ルーマニア便り

第21回

んーっ、小説家にはなれそうもない…
私にとって「書く」ということ
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
現在、文化庁の在外研修生として、ルーマニアに演劇留学中!
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
あくまで半パブリックに…

私がホームページを開設したのはWindows95が発売された翌年。その当時は舞台俳優さん自身が作っているホームページがあまり見当たらなかったというのと、あれこれパソコンをいじるのが楽しかったから、という至極単純な理由からであった。

そのHPに旅公演の日記を掲載しはじめたのは、スタジオジブリのHPのなかに現場の日誌が載っていたのを読んだから。「A女史が仕事場に復帰」とか「宮崎駿さんが絵の具の品番×××が気に入らないといって他のメーカーのものを再度取り寄せた」とかそんな感じで日々4、5行綴られていた。
その品番がどんな色だとか、A女史はこういう人物であるとか、そんな説明はないし、読むほうでも必要はないのだ。現場の息づかいが感じられればそれでいい、という気がした。

そして始めた旅日記は今「ルーマニア滞在日記」へと形を変えたけれど、本当にあったことをそのまま、素顔であるけれども、でも、あくまで半パブリック(公であること)な書き方でつけていこうという姿勢をとり続けてきた……つもり。
「べんべん」の連載もひょんなことからお話をいただいて書かせていただくことになったのだけれど、あくまで半パブリックに……というスタンスは変わらなかった。

書きながら考える…

コンセプトと構成を決めておいて、「結論はこう持っていこう」という始め方ができない私は、いつも、印象に残った“点”だけを頭においてとりあえず書き出しちゃう。この書くという行為を通して自分のなかのあやふやだったことや、ぼんやり感じていただけの事柄をはっきりさせようとしてきたみたい。だから時間がかかっちゃうんだけれど(^^!)

書きながら考える。<どうしてこう思ったんだろう。何でそれを面白いと感じたんだろう>。あー感動したな、とか腹が立ったな、驚いた、とか……放っておいたらその程度の自覚でおさまってしまうようなさまざまなこと……が書きながら考えることで、単に“点”だったものが、あちこちの点と結びついて線になっていく。そして、“わたし”というものを形作っている何かがあぶり出されてくる。そのときやっと、自分の生き方のなかで意味を持とうとしている出来事へと変わっていく。

俳優という仕事について「ほかの誰かになりきって別人生を生きられる素敵なお仕事ですね」と言われたりすると心の中でぼやく……うーっ……辛いことのほうが多いんですけど……。
私にとっては芝居を創るという行為は、<お前の生き方はどうなんだ>ということを突きつけられる現場であって、決して実人生と別物ではない……。自分の一挙手一投足のなかに、ものの見方、感じかた、捉えかた……やっぱり“わたし”というものがあぶり出されてしまう。

自分を表現する手段、なんて言い方をよく耳にするけれど、そう言ってしまうとどうも違ってしまうみたい。書くことも、芝居を創ることも、わたしにとっては、<はじめから自分のなかに豊潤なものがあって、それを表現していく>ということではなくて、<豊潤な何かをどうにかして獲得したい、とあがいている姿を晒してる…>て言うほうが近い気がする。

書くことで<経験>をつくりだせた、のかな…

インターネットという媒体を通じて、自分のことを書きつけるということをするようになって、気がついたらずいぶんな年数が経った。今読み返すと、笑ってしまうような幼い文章もそれこそたくさんある。でも……恥ずかしげもなく!と言われるかもしれないんだけれど……学生時代につけていた日記を読み返すときのような、ページを見るのも恥ずかしいというような感覚には襲われない。あくまで半パブリックに……ということが、日記にしろ何にしろ“作品”なんだ、という意識にさせるからかもしれない……な。

「“体験”と“経験”というものは、違うんだ。体験は誰にだってできるよ。でも、本人が意識しないと経験ていうのはつくり出せないんだ」
そう言われたことがある。気がついたらわたしのルーマニア滞在も、残りカウントダウンに入った。日々の出来事から自分にとっての<経験>と言えるものを創り出したい、そう思うとき、この連載を書くことや、滞在日記をつけていくことがとても大事な作業だったみたい。今あらためてそう思う。

この原稿が入稿できたら、たまりに溜まっているHPの日記をアップするべく、奮闘する予定……「じゃぁ、日記じゃないじゃない」……そうなの……でも、なぜか溜まっちゃうのだ……。

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セミンツェ(種)を売っているおばあちゃん。小さなコップ1杯2000レイ(約10円)。ひとりでブカレストに住んでいると言ったら、「ママから手紙は来るのか?」んー、たまに、ね。「それじゃぁ寂しいだろう」と涙ぐんでしまった。素朴なの

レミー(ルーマニア式麻雀)。ルールは麻雀よりは簡単そう。公園の一角にはテーブルゲームをする人たちが集まっている場所がある。屋外雀荘といったところか…。雀荘には独特の雰囲気があるけど、ここもやっぱりそうだな。
ほかにはチェスとか、バックギャモン。真冬、雪が降り積もるなかでもやっているのには驚いたけど。いずこでも好きな人は好きなのね…