コラム
ルーマニア便り

第29回

「ユジェーヌ・イオネスコ劇場」日本公演 裏方騒動記<東京公演編>
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
文化庁在外研修生として、1年間ルーマニアへ演劇留学。ただいま帰国…ほやほや…
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
ルーマニアの北東部にある小国、モルドバ共和国の「ユジェーヌ・イオネスコ劇場」が2001年秋に来日。群馬県前橋市、東京都品川区、石川県金沢市、の3カ所で公演を行なった。舞台はルーマニア語。というわけで、今回の私のお仕事は字幕スーパー出し…のはずだけど、それだけで済むわけがなかった…あードアムネっ!

スペシャリストゆえなのか? 親方日の丸的仕事の進め方

怒涛の前橋公演を何とか乗り切り東京入り。前橋での公演は、スペシャリストがいないこと、主催者側の素人性等々から沸き起こる数々の問題に奔走するなかで、フェスティバルを創り出すっていうことはいったいどういうことなのだ??と考えずにはいられなかった。東京の会場では各セクションにスペシャリストが配されている。私としては(ひと安心かぁ)と思いきや…やっぱりそんなわけにはいかなかった。

一番揉めたのはやっぱり照明…ふー。その芝居における基本的な仕込み図というものが事前に用意されているのが「普通」である。ところが、こちらはモルドバ?…だからかどうかは分からないけど、そんなものはない!…というわけで、現場のスペシャリストたちは、
「仕込み図がまったくなくてどうやってやれってんだ」
と案の定、しょっぱなからケンケンゴウゴウ。おまけに日本側の照明チームの親玉さんは、よくいるタイプ?の権威主義丸出しという感じの口ぶりで、もう怒鳴りっぱなしである。

本来は舞台の仕込み全般を、トータルで把握し仕事を進めていくという立場であるはずのモルドバ側の舞台監督は、舞台装置を組み立てることしか考えてない。「それ立てちゃったら照明が作業出来ないよ…」といってもおかまいなし。で、モルドバの照明担当にどうしたいかを聞いても「舞台装置が決まらないとわからない」…これでは確かに現場を手伝う人たちは混乱するだけである。

共産主義の悪癖って絶対残ってる。きっといつもこうやって、ものすごく時間をかけて「あーでもない、こーしてみたけどうまくいかないなぁ」ってな感じで舞台を作ってきたのだろう。
はっきりいって私たちが普段やっているセオリーで舞台を作り始めればせいぜい2、3時間で終わってしまう仕事量なのである。哀しいかな、俳優たちが裏方を兼ねている日本の演劇の世界では、俳優たちの負担を減らすためにも、1分でも早く仕込みを終わらせる方法を考え抜くのであーる。日本って美しいほど合理的な仕込みをするのね…なんて妙な感心の仕方をしてしまったりなんかして…。

都心にある多目的ホールで芝居をやるということ

日本の各市町村にある会館というもののほとんどは、多目的ホール。つまりは踊りも、歌の発表会も、芝居から講演会からオーケストラのコンサートetc...つまりは何でもござれ、という造り。それが故に演劇的に云えば、創造性からはほど遠い。<そこの空間でのみ創り出せる創造性>というものは、むしろこちらが持ち込まなくてはならない。なのに!何故か!やたらと<規制>が多いのである。その規制は東京などの都心部ほど厳しくなる。それと舞台作りにおけるセオリーの違い。今回はそれとの闘いという感じでござった。

モルドバ側が自国でいつもやっている調子で舞台を作り出す。すると、「なんで許可なく勝手にそこにガムテープを使うんだっ」から始まって、ありとあらゆることで衝突してしまう。理由ももちろん、ある。たとえばガムテープを使うと粘着力が強くて、それらを剥ぐときに舞台の板も一緒に剥げちゃうから…とか、ね。
「たかだかこれくらいのことにいちいち許可を取らなくちゃいけないのか」
そんな調子で始まってしまった舞台の仕込みは、どこでフォローすればよいのだっ!というくらい険悪な雰囲気が漂ってしまった。

「トリゴン」という3人の演奏家グループも一緒に来日していて、芝居の本番前にロビー演奏を行なうことになっていた。バイオリニストのステファネスクさんが「YOKO…もし、可能だったら、機械と後ろの壁を黒い幕で隠してもらえないだろうか…」となんとも控えめに相談にきた。

現場を見てみると、彼らが演奏する場所と指定されているところには煌々と光り輝いている自動販売機が。事情を舞台責任者に相談。その人が「聞いてきます」と、例の照明グループの親玉さんのところへ…と彼はいきなり、
「あれ(自動販売機)を布で隠すことは消防法で禁止されてるんだよっ! だいたいロビーで演奏すること自体が禁止されてるんだ。それをやれるようにしてやったのに、そのうえこうしてくれだの、ああしてくれだのなんていうのはあつかましいんだ!」
相談どころではない…んー…今私たちは現場の人間として、その場で考えうるベストな空間に近づけるよう全力を尽くすだけのことである、はずなのだがなぁ…。

モルドバ側のスタッフに、首をかしげるようなところがあったことは否定できない。でも、この東京公演の企画では「今のままの日本の演劇状況ではいかん」そういう話がなされていたと聞いている。その流れのなかでのイオネスコ劇場の招聘であっただろう。

文化の違い、それぞれの国の事情、等々のお互いの理解とコミュニケーションを進めることを飛ばしてしまって、日本の権威や規則や原則論を振りかざす。それで、どうして新しい波を創り出せるというのだろ……1週間、本番を見続けるなかで、何人かの日本側のスタッフが協力的になってくれていったと感じられたことが救いではあったかなあ……。
<次回に続く>


●お知らせ●
かなざわ演劇祭にアンゲルスが参加します。
◇公演名:アンゲルス 第6回本公演
    「Night of Galaxy Express」〜銀河鉄道の夜より〜
◇場所:金沢市民芸術村ドラマ工房(PIT2)
◇日時:2月9日(土)19:00
       10日(日)14:00 19:00
       11日(祝)14:00
◇チケット申し込みは《こちら》から・・・
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同じく「瀕死の王様」終演後。左は主宰者のペトル。右は奥さんで女優のアラ
 
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