コラム
ルーマニア便り

第30回

「ユジェーヌ・イオネスコ劇場」日本公演 裏方騒動記<金沢公演編>
 
根本陽子

東京演劇アンサンブル・演劇集団アンゲルス/俳優部所属。「奇蹟の人」<アニー・サリバン>「十二夜」<ヴァイオラ>「オセロ」<デズデモーナ>ほか多数出演。「桜の森の満開の下」<生首>では踊り手としてイギリス、ブリヤート共和国、韓国、アメリカ公演に参加。「沖縄」<垣花シズ>ではイタリア、ベトナム、「かもめ」<ニーナ>で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
文化庁在外研修生として、1年間ルーマニアへ演劇留学。ただいま帰国…ほやほや…
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
ルーマニアの北東部にある小国、モルドバ共和国の「ユジェーヌ・イオネスコ劇場」が2001年11月に来日。群馬県前橋市、東京都品川区、石川県金沢市の3カ所で公演を行なった。舞台はルーマニア語。というわけで、今回の私のお仕事は字幕スーパー出し……のはずだけど、それだけで済むわけはなく、普段はナマケモノと呼ばれ、木にぶら下がっているのが常であるわたくしも、さすがに今回だけはコマネズミと化していた……。

私の、金沢での活動拠点としている劇団<アンゲルス>の主宰者でもある岡井氏が中心となって、「かなざわ演劇祭2001」というフェスティバルを創り出した。その流れのなかでの「イオネスコ劇場」の招聘公演。

私にとって“本物の国際演劇フェスティバル”を創り出したい

昨年春、私は<アンゲルス>のメンバーとして、「イオネスコ劇場」のメンバーが中心となって開かれた首都キシニョフでの国際演劇フェスティバルに参加した。事前の打ち合わせは岡井氏も一緒であった。何度か交流していくなかで、困難な状況下にありながらも彼らが創り出している“彼らの現在”の迫力に、人間としての純粋さに、こころ揺さぶられた。そして「役者は舞台の上で演じるのだけが仕事だ、と思っている時代はとうに過ぎたのだ」と感じた。そして“本物の国際演劇フェスティバル”を日本で創り出したい、そう思った。その思いは岡井氏も同じであったと思う。

今、日本では、主催側がいろんな集団の演目をある一定期間に並べるだけで、それを“演劇フェスティバル”と名づけているのがほとんどである。国や県や市、大手のスポンサーなどが主催となっているような企画は、巨額の予算がどこからか沸いてきて、興行師が入り込み、商品化された作品を買い付けて来る。
そこでは、呼ばれる側と呼んだ側の関係があるだけで、集団同士の創造的交流は起こりにくい――すべてのことをお金で片付ける、そんなやり方にうんざりしているのだ。そうやって並べられる作品のほとんどが、私にとっては退屈極まりないものなのであるからして……。

“商業主義に流されず中身で勝負する、主催側の顔が参加する人たちにちゃんと見える、そんなフェスティバルを日本でも創りだしたい。そして自分たちもそういったものに参加していく”
……それを目指すとき、
<お互いの仕事の“中身”が、コミュニケーションを、ネットワークを創り出していくのだ>
という実感が私になくては、やっていけないだろうな。たとえば……招待する私たちにはお金がない! される側にだってお金がない!! そんな状況でも本当に交流を創り出したいと思ったら、お互いの仕事の中身が魅力的であらねば話は進まんであろう、ということである。

でもそういう方向性を選ぼうとしたら、よりたくさんの困難やめんどくさいことを自らが引き受けねばならなくなっちゃう。創造の場を広げるために動かなくちゃならない必要性を感じたら、「役」を与えられるまで待って、台詞だけ喋っていればいい、ということでは済まなくなっちゃうわけである。

あまりのめんどくささに考えただけで気が遠くなるんだけれど。でもね、その経験を創り出すことは、自分たちの世界観や作品づくりにも大きな影響を与えることになるだろうな……って予感もあるのだ。

醤油の街・大野もろみ蔵での歓迎会

金沢市の大野町は醤油の街である。醤油の原料となる“もろみ”を醸造していたもろみ蔵が40棟近く残っており、この蔵を「若い芸術家たちが育っていく空間として蘇らせ、街全体にアートがあふれるような街づくりを」と地域に根付いた活動をはじめた現代アーティストの若手芸術家たちがいる。
アトリエ、アートギャラリー、イベントホール、スタジオ等々を手作りで整備。96年から始まったこのプロジェクトは着実に地域に根づきつつあるようだ。

そのもろみ蔵で「イオネスコ劇場」の歓迎会が開かれた。たくさんの人たちが手伝って作ってくれたカニ汁やさまざまな料理を食べながら、地元で活躍している<ディキシーユニオンジャズバンド>の面々が演奏し、現代アーティストの芸術家たちがもろみ蔵プロジェクトのこれまでをスライドで紹介したり……。

そうやってしばらく時を過ごした後、下見のため、会場となる<金沢市民芸術村・ドラマ工房>へと出発。ここもまた、日本では稀有な場所と言っていい。元紡績工場跡を当時の建物を生かしつつ改築したもので、演劇スペース、ミュージックスペース、アートスペースなどなどがある。そして、私の知るかぎり、公的機関が運営していながら24時間利用可能で、利用料金・6時間1000円、なんてところはここ以外にはない。

ここはブラックボックスというタイプの劇場で、客席等はその時々の芝居に合わせて作り変える。入るなり、俳優で演出家でもあるペトルがちょっと興奮気味に「演出を変えたい」と言ってきた。前橋、東京、とその場の状況のなかで、彼らも精一杯やってきた、と思う。でも創造的に揺さぶられていたか、というと、そうではなかった……そう私は感じてた。
ほかの俳優たちも興奮気味になっているのがわかった……この表情が見たかったんだよな……。

地域性がどうしたら“オリジナリティ”になっていくのかなぁ…

“金沢”は私が関わっているからヨイショするというわけじゃないの。たまたま偶然だけれど、前橋市は私が生まれて育ったところだし、東京は今現在も暮らしている。私にとっては3カ所ともに大事な場所なのであるからして。

でも、何をするにも多額の予算が必要で“近代化”の最先端を突っ走っている東京なんていうところでは、やれることにはどうしても限界があるのだ。だからこそ、いま日本で<真の意味で、独自性があり、かつ創造的で前衛的なものを創り出そう、関わろう>と思うとき「地域でならやれるのだ」と言える要素があるのじゃないかな、ということなのだ。

でも、だからといって地域にただ住んでいれば、オリジナリティをもつ何かが生み出せるかっていうと、そんな簡単なものじゃないわけで……このフェスティバルも、一発勝負なら比較的たやすい。でも、継続させるってことは……私たちはまだまだたくさんのことを模索し続けなくちゃならないのだろうな。

さて、字幕スーパー出しのお仕事のほうは……というと、さすがに最後の金沢公演では、芝居の間合いもわかってきたし、スライドを出す私自身の間合いとの掛け合いを、自分で楽しむってところまではいけたかな。楽日はほっとひと息つけたのであります。


●お知らせ●
かなざわ演劇祭にアンゲルスが参加します。
◇公演名:アンゲルス 第6回本公演
    「Night of Galaxy Express」〜銀河鉄道の夜より〜
◇場所:金沢市民芸術村ドラマ工房(PIT2)
◇日時:2月9日(土)19:00
       10日(日)14:00 19:00
       11日(祝)14:00
◇チケット申し込みは《こちら》から・・・
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午前中の空き時間を利用して兼六園見物…彼らはタフだぁ。冬の北陸!のはずなのに珍しく快晴。ちなみに右はわたくしでござる。真ん中は第1王妃役のアラ。左は通称“アトム”ちゃん。アンゲルスの女優さんです