コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず

第4回

ビバ!貧乏・アルバイト事情
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
仕事が俳優だとか劇団所属とわかると、よく人に「バイトしないとやっていけないでしょ、大変ねぇ」などといわれるのだが……。

日本の芝居屋さんの台所事情

私の分野を、しいていうならば「現代演劇」、とか「新劇」とかいうことになるのであろうか…そうくくられるとちょっと違う気がするけれど、まあ、いいか。劇団でこれまでどんな仕事をしてきたのかを大きく分けると、まず東京公演。

これははっきりいってギャラはないに等しい。新作として始めるものでは本番・稽古期間含めて大体1〜2カ月以上。それも朝から夜中まで、稽古のほかに<タタキ>と呼ばれる大道具、小道具作り等々もある。そのあいだは、お金というものは入ってくるものではなく出て行くだけのものである俳優たちにとっては、懐につめたーい風がふきすさぶ。
……それでも何故か毎晩呑みに行ってるんだけど…不思議だ。
で、どこで生活費を稼ぐかというと、旅公演。

こなしたステージの数のギャラと食費がもらえる。旅公演は春と秋に集中するのでそのあいだに稼いだお金でほかの期間を乗り切っていく、わけである。旅公演のない時期には東京での稽古・公演があるのだから、アルバイトをする暇なんかない。私自身もそんなこんなでこの○○年、バイト生活をたいして経験することなしに今まできてしまった。

旅公演をほとんどやらない小劇団の人たちの大半はアルバイト生活をしているみたいだし……じゃぁ、マスコミや商業演劇の世界では、我々よりは、もそっと楽な生活をしているのかというと、意外とそうではないらしい。むしろ、もっと大変だったりする人も多いみたいで。<バイトしている人たち>というのはそういった世界の人たちのほうが多いなぁ、というのが周りの人たちを見ていて、私がいまもっている印象である。

ルーマニアでのちょっとした事件

去年、<アンゲルス>のメンバーとして参加したルーマニア・シビウでの演劇フェスティバルでのこと。劇場とするにはかなり厄介な場所での野外公演だったため、舞台の仕込みや現場でのあたり稽古に時間が足りない状況だったのだが、急遽ラジオ局の取材が入った。おまけにスタジオまで来て欲しいという。
……まあ、仕方ないか
ということで、私と演出家とオセロー役の俳優と通訳の女性4人で出向いていった。

話の流れのなかで、日本での活動の説明を求められたとき「大学の講師をしたりもしてますが…」と演出家が話し出したとき。心の中で、
……あちゃっ
と思った私は、そのとき通訳をしてくれていたルーマニア人の若い女性の顔をチラッと見た。あたりまえだけれど意思は通じなかった。

彼女は芝居にはまったく興味がないと割り切っていて、私は、他人との意思疎通ができないタイプの子だな、と感じていた女の子。もちろん日本の演劇事情なぞまったく知らないし、聞きたいとも思わないという彼女が演出家がいったことを直訳したその途端、それまで楽しそうに質問していた女性アナウンサー2人の声音が変わってしまった。「副業=アマチュアか、なーんだ…」と思われたのである。もっといえば軽蔑の眼差しさえ感じてしまった。

さりげなーく「われわれはプロフェッショナルである」と口をはさんだのだが、時すでに遅し。聞く耳もたなくなってしまった彼女たちのインタビューはぞんざいになり、いやーな感じで終わってしまった。

<アカデミー>の話

ルーマニア(だけではないけれど)の演劇人の大半はアカデミーを出ている。アカデミーには俳優、演出、映画、脚本…の分野があり、入るにはもちろん難関を突破せねばならず、卒業してからどこかの劇団に就職?する。
……私から見ると所属ではなく就職って感じがするのであります。
それぞれの分野のエリートで、社会における地位も高く、人々からは尊敬もされている。日本と違い、社会的に立派に認知された職業であり、<役者は食えないからアルバイト>なんて感覚はない…というわけである。

……でもまあ、だからといって経済が破綻している今のルーマニアで俳優たちはみんな食えているのか?というと、それはまた別の話。日本同様大変なことには違いない。平均月収1万円のお国で劇場からの給料がそれに満たないベテランたちもたくさんいるし……。

そんなことは同行していた演出家だってもちろん、私以上に日本との演劇事情の違いを承知してる演劇人である。ただこの問題に意識的に触れようと思って、切り出したわけではなかった、と思う。

互いの文化の違いに対する認識や理解を深めていこうとする姿勢がまずなくては、流れはつくりだせないなぁ、と反省。そのときのことでいうと、インタビューする側は最初から、寿司や天麩羅について聞きたいというレベルの興味であり、そのことに対する論議に進むとは思えなかったけど。

私たちのなかには「俺たちはアカデミズムに抵抗してきた、というこれまでの日本の演劇事情がある」という思いがある。この問題は書き出すとながーくなっちゃうから、かなりはしょるけれど――アカデミズムが生み出す弊害というものがある――のだ。

一般の学校教育の問題もいろいろ叫ばれている昨今。人間性や、独創性、個別の能力を重視する教育は複雑だし、管理する側も大変だぁ。で、事なかれ主義の発想でどんどんマニュアル化されていく教育方法のなかで育っていく子供たちの問題は、昔から論議され続けている。演劇人だっておんなじことじゃないかな。ちょっと乱暴かしらん。

ルーマニアにしろ例外ではなく、これから、アカデミズムが生み出す弊害が具体的に問題視されていくだろう、という気がしている。今現在、劇場自体にもお金がないわけであるから、観客が集まりやすいもの、お金が儲かりやすいものがやられていくなかで、<もうひとつのもの>を創り出したいと、これまでのシステムを捨てて動き出す演劇人たちがこれから現われてこなくちゃおかしい、という私の想いもある。

さて私自身のアルバイトの話

少なくとも私は、俳優以外の仕事でお金を稼ぐことを恥ずかしいと思っているわけではない。もちろん、それでだけで進んでいければもっとよいわけであるが。ただ、商業主義に走らず、これからの演劇の方向性<もうひとつのもの>を模索していこうとするとき、そういう生き方を選ぼうとするとき、どうしてもお金になんかならないのが今の日本の演劇状況なのである。

考えてみれば、私が今までたいしてバイトもせずに生きてこれたのは、それなりにシステムがはっきりしていた劇団での仕事がおもだったわけであるからか。そこからバリ出して自分の足で動いてみようとすると途端にバイト生活を余儀なくされる、というわけである。

でも、単にお金を稼ぐだけという意識でアルバイトをするのは、精神的に参ってしまう。というわけで、今、新しいバイト先に通い出した。その話を書こうと思ったのに、またもやながーく話が逸れてしまったおかげで次回に持ち越しでござる。


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