コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず

第5回

ビバ!貧乏・アルバイト事情<カラオケ映像編集編>
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
ふらふら漂うのもかなわぬ状況に…

ルーマニアから帰国して、半年近くふらふらと漂っていたのであるが、さすがに状況が許さなくなってきた。夏のプロジェクトに向けての自己資金をプールしなければいけないし、そろそろ重い腰をあげなくちゃなぁ…でもなぁ…何のバイトをしよ……。
一緒に飲んでいた若手の演出家志望の友人に、
「そういうことなら、僕がやってるバイト紹介しますよ」
というわけで、紹介されたのが《カラオケの映像編集》のお仕事。

“カラオケ”の場では、皆さんおのれが歌うことに必死である。ヘタすると他人の歌なんか聞いちゃぁいない。「次はなに歌おっ」と分厚い歌本を一生懸命めくっておる。そんな様子であるのだから、バックで流れている映像にまで意識を向けてる余裕なんて、まずないっ! へへっ、少なくともわたくしはね(^^!)V
……あー、でもやっぱり誰かがやってたんだぁ…そういう仕事……
と何だか不思議な心持ち。このバイトを始めたおかげで最近は、カラオケ屋さんに行くとやたら映像が気になって仕方ない。

カラオケ映像編集<仕事の中身>

私の最初のカラオケとの出会いは何歳だったのかは忘れた…子供の頃であります。田舎のおばあちゃんのおうちに遊びに行ったら、ドデーンとどでかいカラオケの機械が置かれていた。いわゆる8トラ。これまた分厚くどでかいカセットテープをグアチャッと差し込む。当然歌える歌は自分が買ったものに限られるわけで……。

カセットからレーザーへと移り変わり、曲だけが流れていたものに映像が加わりだした。そしていまや通信カラオケの時代である。新曲が発売されたと思うと、驚くほど短期間のうちにカラオケで歌うことができてしまう……<そういうもんだ>と慣れてしまっていて、そのシステムなんてものに思いを馳せてみたことなぞ、これまで1度もなかったよ。

ほかにも種類があるらしいのだけれど、いま私がやっている映像編集作業のシステムを大雑把に説明すると……。お店に置かれてる機械のなかには、映像が記録されたディスクが何枚か入っているのだそうだ。私の仕事は、その映像から、曲のイメージに比較的近いと思われるものを何種類か選び出し、切った貼ったして1曲分のストーリーを作り上げる、というもの。お店に置いてある機械に送られるのは、「この曲が演奏されたらAディスクの何秒から何秒、Bディスクの何秒から何秒…etc.を画面に表示する」というデータなのである。

毎週<新譜・旧譜>合わせて200曲ほど作る(あっ、何人かでやるんですよ。ひとりでやったら死にます)。<○一○商>1社からお店に配信される曲数は、1週間に500曲ほどとのこと。1曲ずつのイメージ映像を新規で作っていたら、経費も時間もいくらあったって足りゃしない。しかし、他社とどこかで差をつけなくちゃならない。なるほどねぇ……。

しかし、システム上の制約が多々あって、自分がイメージしたものをそのまま作れるとは限らない。「あちらをたてればこちらがたたず」状態に陥ると、1曲仕上げるのに2時間以上かかったり、かと思うと5分で仕上がったり…歌詞や曲のイメージの解釈は作る人によって違いがあるわけで、どの映像を使ってどう構成するかの判断は作る人に任される。
始めたての1週間は毎夜、映像を編集してる夢を見て目を覚ましてました…それもうなされて……。

カラオケ文化…それだけじゃ、ちと淋しい

ここまでくれば立派な文化なのであるからして、どうこう言うつもりもないけれど、今、私も含めて“余興”とか“打ち上げパーティー”とか…カラオケをすればその場が、いとも簡単に成立してしまう。でも、それだけって何だか淋しい。

ちょっとした集まりのなかで、誰かがフッと楽器を弾きだす。誰かがちょっとそれに加わって、そこらにあるものを叩き出す。誰かが即興で歌いだす。そんな感じで軽いセッションが始まったりする……たとえば芝居の打ち上げとかでね。さりげない格好よさって、実現できそうでなかなかできない。<さりげなく>そういうことができるセンスを鍛える場所に居ることがどんどん少なくなっていってる気がする。
……役者だしねェ…カラオケだけやってちゃ、やっぱりだめだよなぁ。

あっそうそう、カラオケ好きな方! もしかすると、今あなたが歌っている曲の映像は、私が編集したものかもしれませぬ。へへ……。


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劇団アンゲルスの事務所兼カフェ。ここで時々カフェテアターと称して芝居やコンサート、映画の上映などやっております。この日はアンゲルスメンバーの藤沢祐子(ピアニカ)と井ノ上孝浩(ギター)がオリジナル曲を演奏。なかなかやるんですよっ!この2人。最近は東京で頻繁にライブ活動もやっております
 
モルドバ共和国のユジェーヌ・イオネスコ劇団の金沢公演・打ち上げ風景。イオネスコ劇団の男優2人がピアノで故郷の歌を演奏。それに合わせてほかのメンバーたちが歌いだす、踊りだす。ちょっと素敵な瞬間