コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず

第7回

脳みそ老化の言い訳あれこれ
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
ルーマニア語…あっという間に忘却の彼方へ

この頃、すこーしだけ私の周りが慌ただしい。それにつられて私自身もバタバタしている……。つられて、とはいえ、怠慢な性格上、自らの意思で忙しく動き回ることをもっとも不得手とする私にとっては、歓迎すべきことである、といっていいのであろう……うん(--!)。ところでこれは……この原稿の締め切りを守れないことの言い訳にもならない言い訳なの……あードアムネ!(ルーマニア語で女神様!の意)

そんなこんなで、このところまったく使わなかったルーマニア語を、最近はホンのすこーしだけ使うことがある。うー、人間の記憶というのは不可解だ……ルーマニア語を勉強しようと思っているときは簡単な英単語がまったく思い出せなくなる。でもルーマニア語で何というのかわからない単語は、英語で飛び出してくる(あっ、英語もほとんど喋れませんが……)。

帰国してから随分経った今は、ルーマニア語の、簡単な単語すら必死に考えても出てこない。ところがさっきまで必死に思い出そうとしていて成功しなかったものが、意識しないふとした瞬間にさらっと出てきたりする。……なぜだぁっ。

何でも言語をつかさどる部分の脳みそは、理性をつかさどる部分とは違うところだそうな。右脳だか左脳だか忘れたが……だからお酒を飲んで理性が麻痺すると流暢に喋れるようになるらしい。ということは、語学を上達させようと思ったらお酒を飲むのが一番よいのだっ!! これは毎晩飲みあかしていることの言い訳ではない……。

台詞もド忘れ…トラウマ

芝居の台詞を覚えるというのは脳みそのどこの部分なのだろうなァ……。
“若いころ”は<台詞を覚える>という感覚はなかったような気がする。テーブルに座って台本を見ながら読み合わせてるあいだに、いつのまにか自然に覚えている。下手するとほかの役の台詞まで入ってたりする。でも、覚えようとする意識はほとんどといって、ない。これは私だけではなくてほかの俳優さんたちもそうだと思うなぁ。

十数年芝居を続けてきた自分の歴史のなかで、<台詞が思い出せない>ということが多くなったきっかけがいくつかある。一番最初の出来事は……シェークスピアの「真夏の夜の夢」の本番中のときのこと。ハーミアとヘレナという2人の女性が言い争いをするシーンで、ヘレナ役の私は一瞬<あれっ??>と考えてしまったのである。

似たような長ーい台詞が延々と続くシーン。その瞬間、たったひとつの接続詞が出てこないがために、何度やっても前の台詞に戻ってしまう。まるでメビウスの輪。もともと数字以外!の記憶力はそこそこあったと思う私は、本番中に台詞を“ど忘れ”する、なんて心配をしたことがなかった。

<そんなときもあるだろう>なんてことを微塵も考えたことがなかった私の動揺たるや……平然とした態度でうまく乗り切るのも才能であり、経験も必要だけれど、生まれて初めてのことに頭が真っ白になった私である。
その時の恐怖はトラウマとなり、それからやるどんな芝居も、毎ステージがそれとの闘いになってしまった。<あれっ>と思ってしまったら最後、なんでかしらんが、出てこない……。

じゃぁ芝居の台詞は、“丸暗記”のように、無意識に覚えるものか、というとどうやらそれだけではないようで……今年の1月にやった芝居は、ストーリー性があるような、ないような……起承転結がはっきりしているストーリー性は排除され、一見脈絡がないかのようにも見える展開。台詞の量はそれほど多くない。な・の・に・台詞がなかなか出てこない。

何故か……その答えは“芝居の中身に対する私の理解”が追いついていない、ということだった。台詞は絶対入っているはずである。なのに台詞を喋るとき、頭の中のどこかが邪魔するのだ。表面に浮かんでくるはずの記憶の断片を何かが引っ張って脳みその奥深くに沈めてしまうっっ!

やっぱり老化かなぁ…自分の心に自己規制

「歳をくって脳が衰えたのじゃっ!」……それもあるんだけれど(--!)/ 自分のこれまでを思い起こしてみると、<思い出せない・覚えられない>ことが多くなった理由は、年齢や脳みその使用頻度だけではないのだ……という気がしてきた。

何の判断基準も持てない頃は面白かろうが、なかろうが、わかろうが、わからなかろうがすべてをそのまま頭に記憶し、取り出し可能な柔軟さがあった……ということにしておこう。ところが、気がついたらいつのまにか、心にいろんな規制を自らしてしまっている。興味のあることは一読しただけなのに完璧に思い出せるけれど、はなから興味のない事柄は何度読んだって覚えない、とか、ね。物事に関わる前に、自分に合う合わないを見切ってしまって、セレクトしている自分がいる。

年齢とともに、経験を重ねて自分の興味の対象がだんだんはっきりしてくる……それはそれで面白いことだけれど、経験を重ねることで、気づかずに染み付いてしまった自己規制というものもあるわけなのだなぁ……。それが脳みそにも影響してる……ような気がする。ということは……若さを保つっていうことは、そういった自己規制をどれだけとっぱらえるか、ということでもあるってこと?

自在に数カ国語を操る美しきルーマニア女性に囲まれて、
……この人たちの脳みそってどうなってるんだ
と考えてたら、こんな話になっちゃった……


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渋谷にオープンしたトルコ料理店 HILALL(ヒラル)にて。何だか…皆さん数カ国語ぺらぺらっす…なんでこうも脳みその出来が違うのかなぁ……とほほです
 
料理に情熱を燃やすお店のオーナー:ハッサンさん。サッカーの日本対トルコ戦。前半は日本、後半はトルコを応援するつもりらしい。焼き立てナンはたまらなく香ばしいです……料理はおいしいっ!
 
この日はベリーダンスのショータイムあり。ナイスプロポーションの日本女性のダンサー。なんでもアメリカでベリーダンスを勉強したそうです。魅惑的な腰の動きに皆様の目は釘付けでござった……