コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず

第15回

“いのち”を感じさせてくれるもの…(7)
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto66@hotmail.com
 
〜前回までのあらすじ〜
彼女と知り合ったのはルーマニアのブカレスト。JICA(国際協力事業団)のメンバーとして救急病院で働いていた。初めて会った日に、生き方に共感できる仲間だ……そういう直感があった。その彼女から、5月初旬「HIVに感染してん…」という1本の電話を受けた。院内感染……。
大阪の保健所で受けた再検査の結果は<(−)マイナス>だったけど、東京のJICA本部で「最初の検査方法のほうが保健所での再検査よりも信頼がおけるもの」と告げられて、感染症専門の研究施設で再々検査を受ける…。そして、検査結果は<−マイナス>だったが…。
 
検査結果を知らされて

感染していなかった……この半年間、彼女が心の中で葛藤し続けたこと、周りの人間たちを揺さぶり続けたこの出来事は何だったのかな……彼女は、自分自身の周りのすべての物事を“死”と直結したものとして感じてしまう状況下のなかで、感染症専門の研究施設に毎週のようにやってくる新しい患者たちが相当数いること、HIV感染者、エイズ患者の現実社会で生きていくことの困難や、それらの人々の友人知人にまでおよぶ迫害の事実や、日本ではカウンセラーという制度もあまり発達していないこと、など――それらを迫力のあるリアリティーとして感じ取ってた。

そして感染していなかったとわかったとき、自分は、この問題の渦中にあったはずなのに、最後の最後でそこから外れてしまった……という複雑な思いのなかで、エイズ関連の仕事に進むだろう……とおぼろげながら感じてた……と、思う。それを実現させるためのいろんな問題は、これからひとつひとつ克服していかなくちゃいけなくなるのだけど。

細い糸

「金沢経由で実家に戻る」ということで、東京のS夫妻と4人で一路金沢まで車を走らせる。そして岡井氏(アンゲルスの代表:演出家)に会って結果報告。夜、岡井家の居間で飲みながら話をする。

50代半ばの彼が「僕たちの世代はね、今みんな孤立しちゃってるんだよ。でもね、どこかで<細い糸だけど繋がっていこう>と意識しないとモノは創れない……孤立しちゃだめなんだよ」ひとり閉じこもって数カ月を過ごしていた彼女に、そう言っていた。
……細い糸……そうなんだと思う。その糸を切ることも簡単だし、どうってないことでも簡単に切れてしまう。他者と人情や義理で付き合うのではなく、中身で繋がっていきたい。今の時代のなかで自分なりの“何か”を果たそう……と思うとき、“細い糸”と“孤立しちゃいけない”という言葉が何だか私の心の中に残った。

ATOMちゃん

私には、もうひとり会わせたい人がいた。これまたかれこれ十数年の長い付き合いになる女優さんで通称ATOM。彼女という存在は、私のなかではある特異な位置にある。“他者”ということを意識させられる数少ない人。仲が悪いという意味ではないの(^^!)。同様なものに対する憧れは私もATOMももっていると思うけど、それに迫ろうとする手段はおそらく全然違う。だけど、その違いをお互いがわかってるんだろう……そんな感じ。

で、今、ATOMは重度の身体障害者の施設でアルバイトしてる。あまりの大変さに初日で逃げ出す人も多いらしいけど、彼女にはどうやら合っているらしい。日常生活を器用に生きることがへたくそな(^^)彼女が、その仕事のなかで感じ取っていることの中身は、私では感知できないものかもしれない……そう思う。“通常のコミュニケーション手段とされてる言葉”を発することがなく、社会を円滑にするためのお約束事などに縛られない人たちのなかで、ATOMもまた、彼らがもつ迫力を“自分にとってのリアリティー”として感じてた。
“いのち”を感じさせてくれるもの……に触れている2人の女性が話していることを、私は隣で黙って聞いてた。

いちおうの帰結

彼女は、看護師の現場に復帰した。そしてエイズ関連の仕事に進もうと、準備を少しずつ始めてる。日本の制度では、資格を取るにしろ何にしろ、彼女の看護師としての十数年の経験なんて無視される。「いっそのことアメリカにでも行ってしまえっ」という案も浮上中。いずれにしろ、簡単にはいかない問題が、進もうと思えば思うほど山積みになってくる。でもきっと、彼女は奮闘するだろうな。

生きてくなかで遭遇すべくして出会ってしまった出来事は、いつだって、そう簡単に総括できるわけじゃない……だから今、ここに書くことも尻切れトンボで終わってしまうかもしれない。でも、真実に迫ろうとする誠実さはもっていたい、なぁ……。投げ出したいギリギリのところで踏ん張ろうとさせるのは、自分のなかにある他者の“目”なのか……あーメンドくさいっ…(-0-) で、7回にもわたって書いてしまいました……終わり。


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金沢市民芸術村パフォーミングスクエアでの公開舞台稽古前の風景:<NEUK>のメンバーは音合せ:ギター(井ノ上孝浩)・ドラムス(月原誠)・ピアニカ(藤沢祐子)
 
今回上演するオセローマテリアルでは障子紙を張った板状のものを6枚使用。俳優たちが手に持って舞台上であれこれ?する。美術担当・小林あかね
 
で、この紙板に映像ディレクターの嬉野智裕が稽古を見ながら編集した映像が映し出される。でもこれ、毎回破られちゃうもんで、美術ディレクターは障子張り?におおわらわ。美術担当・菊地朝香