コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず

第18回

アンゲルス in ウクライナ
〜Golden Lion 国際演劇祭(3)
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto@hotmail.com
 
金沢に拠点をおく劇団<ANGELUS(アンゲルス)>が、ウクライナ共和国第2の都市・リボブで開催される<Golden Lion 国際演劇祭>に日本の現代演劇として初めて公式招待を受けた。
作品は<オセローマテリアル2002>。金沢で約2週間、合宿しながらの稽古。10月1日、金沢市民芸術村のパフォーミングスクエアで公開舞台稽古を終え、10月3日に成田を出発。

40時間の長旅

現地時間の3日の夜11時頃にキエフの空港に到着。アンゲルス側で探してお願いしていた日本語−ウクライナ語通訳スタッフのマリアちゃんが待っていてくれる。

思ったより凄くなかった(^^!)バスに乗り込みリボブへ。私はといえば、どんなにガソリン臭かろうとバスが動き出した途端、爆睡状態。途中面白いことがあったとしても何にも知らない……あっ、1度だけ道端休憩で目が覚めてトイレへ。もちろん、道沿いの藪の中がトイレ。バスに戻ってきたらお尻が2、3カ所ちくちく……やや……どうやら何か知らん虫に刺されたようです。
それはさておき、翌朝10時頃、リボブ市内のホテルにやっと到着。金沢を出発してから40時間かかった計算。

演劇祭からは外国の招待劇団に対して、通訳を含めた日々の面倒を見てくれる数名のスタッフが派遣される。現地ではアーニャと、もうひとりアーニャ(^^)、そしてソフィアという英語が話せるリボブ大学通訳科の大学生たちが待っていた。ボランティアとして今回のプロジェクトに参加したという彼女たちはマリア同様、私たちがこの地を離れるまで、文字通りつきっきりで行動を共にしてくれたのだった。これまた楽しげな(^^!)ホテルの部屋に荷物を置いてすぐ、事務局となっている劇場へと向かったのだけど……。

ポスターを見て絶句

劇場前に貼ってあるポスターを見てまず絶句。上演日が違ってる……。
渡航まで1カ月を切ってから、日程やステージ数の変更が二転三転するメールが来たかと思うと、突然「あなたたちはどこの劇団で、どんな芝居をやるのか?」などとふざけたメールが送られてきたりして。
舞台装置の一部の発注、ドラムセットやアンプ類等、こちらが払うお金が発生する内容の相談なども、ずっと以前からやり取りしていたにも関わらず!!
……でも、お金が絡むことだけは、何故か混乱してないのだ。
「現地入りしなけりゃわからん。まっそんなもんだ」
そう言ってやってきたわけだけれど……ハハ、もう1日上演日がズレ込んでたら私たちは何もしないで帰国です(- -!)

そして、演劇祭オープニング

到着したその日が演劇祭の初日。オープニングを飾ったのはこの国で一番人気があるAndriy Zoldak氏演出の<ハムレット・ドリーム>。私たちは2階席のサイドにいた。
ただでさえ日本人は目立つからな、気を付けよっ、とは思っていたのだけど……寝てしまった……。疲れももちろんあった。でもじつは退屈だったのである。

アンゲルスの演出家は“コマーシャリズム”という言い方をしたけれど――照明がつくたびに俳優たちがオブジェのように次々と、写真のひとコマのようにポーズを変える――そういう芝居。構成やアイデア、ビジュアル面では新しく見えるのかもしれない。確かに、鍛えられた俳優たちの体の動きは美しい。でも、生身の俳優たち自身の、生き方含めた魅力というものは表には出てこない……演出家のマスターベーション。
人気の高い演出家の作品に出ていることが誇りで、ある決まった形を、テンポよく鮮やかに再現するために一生懸命になる俳優たち……そこに求められるものの大半は技術だけだ。同じ職業のものとして、わからないわけじゃないのだ。だからこそ、役者としての虚しさを同時に感じてしまう。

物語性にがんじがらめになってしまう今までの芝居の在り方を壊し、再構築しようとする行為は、こういう方向に流れやすいのじゃなかろうか。そして、いままでのものよりも新鮮だと感じられ、受け入れられる、のだと思う。現に若いアーニャは「とても新しくて面白い」と敏感にそういったものに反応していた。

金沢・ウクライナ・ルーマニア

演劇祭のポスターには「TOKYO・JAPAN」と書いてあった。私たちは、東京にいるからこそ出来なくなってしまう類の仕事をするために、日本の“地域”である金沢を拠点にしている。そして地域から、世界へとつながれる中身のある作品を創り出そうとしてきた。でも、日本のことなんてよく知らないこの国では、「日本と言えば東京」なのだ。

リボブはウィーンにも地理的に近く、ハクスブルグ文化の影響も受けていて街並みも美しい。私の中学生時代の記憶では、ウクライナといえば肥沃な大地が広がるソ連邦の食料庫。演劇祭が準備してくれる食事はどれもおいしくて、牛乳の味がするバターは食べ出したら止まらない。市場にはおいしい野菜が豊富に並んでる。
その一方で経済は伸び悩み、平均月収は1万円弱。「子供たちの学費を稼ぐために外国に出稼ぎに行く母親も多い。私のお母さんはスペインへ行く」と言ってたアーニャ。そして、彼女たちが憧れるのは“経済大国アメリカ”……。

……でも、芝居屋が、芸術家たちが、多くの矛盾と混乱を内包しているこの国の中にいるからこそ創り出せる、と言える独自のものがあるはずなんだ。それは私たちの作品創りととても近しい感覚のような気がする……。
ルーマニアに住んでいた時と同じように、そう思えた。

「日本人と会うのは初めてで、前の日は緊張して眠れなかった」と無邪気に語ってたアーニャとソフィア。若い彼女たちに私たちの仕事はどう映るんだろう……<オセローマテリアル2002>上演まであと4日……続く。


 
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Golden Lion 国際演劇祭:ウクライナの西の古都リボブで1992年から2年ごとに開催。今年は6回目。ウクライナ文化芸術省、ウクライナ演劇協会、リボブ文化局と連携し、ボスクレジニア劇場が主催者となって運営しているウクライナ最大の演劇祭。この演劇祭は同時に、ヨーロッパ演劇フォーラム(IETM)とヨーロッパ国際演劇祭、およびヨーロッパイベント協会(IFEA)にも連なっている
 
最高に寒かった日は気温0度まで下がったんじゃないかな。このあとの予定を考えて荷物を増やしたくない私はコートを買わずに耐えたのだ(涙)。なのに市場ではスイカが売られてた……
 
元ウクライナの大使館勤務だったNさんに、「なっがーいリンカーンを見たらマフィアのボスと思ってください」。そう脅されていた私はこれを発見して狂喜乱舞。「う、撃たれる撃たれる」と言いながら写真撮って走って逃げた(^^!)