コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず
 

第23回

プチ放浪記?…ブタペストの夜…
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://fame.calen.ne.jp/~yoko/
E-mail:yokonemoto@hotmail.com
 
2002年10月、ウクライナ国際演劇祭に参加後、ついでにほかの国も回っていこっかしらん……というわけで、演劇祭開催都市・リボヴから、夜行列車に乗ってハンガリーのブタペストまで約13時間、料金は51ドル。旅のお供は映像監督の嬉野クンと、このあと1年間、金沢市のスカラーシップ制度でベルリンのGrips theater(グリップス劇場)へ演劇留学する森尾舞ちゃん。

喫茶店で長話

1日中小雨がパラついていた日の午後、歩き回るのもめんどくさくなって、ドナウ川沿いにある喫茶店に3人で入る。芝居のこと、映画のこと、自分たちが本当にやりたいこと、恋愛、人生、etc……3人で喋りまくった。気がついたら夜の7時過ぎ。よくもまぁ、これだけ長時間同じところにいたわねぇ、お酒飲んでるわけでもないのに (!−-)/。
「なにもわざわざブタペストじゃなくて、日本で喋ればいいことなのにね」
……でもこうした話を、私たちは、今、したかったんだろうな……。

日々いろんなことを話しているようでいて、意外と本質を話し合ってなかったりする。きちんと向き合おうとして話をしたら、相手のうわっつらだけしか見てなかったな……そう感じることも、よくある。多分、私たちは観光がしたいわけじゃないんだろう。それぞれが、<自分なりの何かを見つけるきっかけにしたい>そう思って、たまたま一緒に旅をしているのだろうから……。

見たいものしか見えてない人間の目

外に出てみたら、もう真っ暗。ほてった顔には外気の冷たさが心地よくて、散歩がてらドナウ川沿いをトコトコ歩く。ドン・嬉野(あだ名です)が言う。
「人間の目は見たいものだけしか見てないんです。たとえば、あの風景をきれいだな……と感じてるけど、その前にある電線は目に入ってない。だからデジタルビデオのように、すべてをクリアに映してしまうものを後で見てみると、なんか違うなって感じちゃう。人間の目に一番近いのはやっぱりフィルムなんですよ。撮る人間の感情が出ちゃうんです。やっぱり映像は面白いです。同じおじさんの顔のアップでも、前後に子供の映像くっつけちゃうとほほえましいけど、裸の女性の映像に差し替えたら、単なるスケベなおっさんになっちゃうし(笑)」

私の中で“見たいものだけしか見えていない”という言葉がやけに新鮮に響いて、頭の中でカチリと音を立てて何かがはまったような感じがした。
私は今まで、自分が経験したことを書き綴ることはしてきたけど、ストーリーテラーにはなれないな、ってずっと感じてた。シチュエーションを考えて、落ち?を考えて……なんだかたいそうな作業のような気がして、とてもじゃないけど、物語なんて紡げない、そう思い込んでいた。だけど……。

断片をつないでいく

道端にある落ち葉がふと目に入る。「たとえば……この……道路で雨に濡れて踏みしだかれた落ち葉を見て、物哀しいと感じて興味をもったとするでしょ。そんなふうに“私の目”が興味をもったものをつなげていったら、物語ってできちゃったりするかもしれないよね……」

断片をつなげていく作業……そういったやり方でなら、私にも物語を創ることが、映像を撮ることができるかもしれない……。“ものを一から創る作業”ということに関して、何を思い込んでいたんだろう。はじめにこんなストーリーで創りたいと考えて、細部(ディテール)を構築していくのではなくて、逆のやり方。
でも、その創り方は自分自身の中身が面白くなかったら、でき上がったものはどうってことのないものになるのだろうけど……。

やっぱり甘えてたってことだな……

なんだか……苦い笑いがこみ上げてきた。考えてみれば、今までもそうやって芝居を創ってきたんじゃなかったっけ? 今になってそんなことに気がつくなんて……<そうでありたくない>とは思ってたつもりだけど、やっぱり私の感覚は<“俳優”という楽な位置にあぐらをかいて、用意された台本に乗っかってただけだった>ってことか……。

マルギット橋からふと見やると、街の灯りと緑色でライトアップされている国会議事堂がなんとも幻想的に雨に煙ってた。
……きれいだなぁ……。
そして2人の、同じように「きれいだぁ…」という声が聞こえる。それぞれの脳裏にはそれぞれの感情が加味された映像として、それぞれ違った絵になってるはずの幻想的な風景。

翌日からさっそく、ドン・嬉野のビデオカメラを拝借して映像を撮り出す私であった。


 
 
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ブタペスト・ブタとペストをつなぐ鎖橋:ライオンの銅像がついてて、その顔はケッコウお茶目
 
小雨降る街なかにて。気温0度のウクライナにいたときから、日本で秋が終わりそうな「寒くなってきたね」っていう時期の格好してた私。寒さしのぎにずっと緑色のレインコート着てたら、いつのまにか「世界の郵便屋さん」と呼ばれてた(^^!)。右は舞ちゃん
 
世界で3番目に大きいというシナゴーグ(ユダヤ教会)。男性は見学するにも、河童のお皿みたいな帽子をかぶらなくちゃいけない。で、ドン・嬉野は似合ってた……左手前