コラム
役者という生き方〜貧乏ものともせず
 

第29回

プチ放浪記?
ウィーン行き夜行列車にて…深夜の乱入者たち
 
根本陽子/女優
「奇蹟の人」「十二夜」「オセロー」ほか多数出演。「桜の森の満開の下」では踊り手として、イギリス・ブリヤート共和国・韓国・アメリカ公演に参加。「沖縄」では、イタリア・ベトナム。「かもめ」ではニーナ役で日本人として初めてモスクワ芸術座の舞台にたつ。
2001年、文化庁芸術家在外派遣研修生として1年間のルーマニア滞在を終え帰国。貧乏をものともせず、「集団に依存しない真のクリエイターの姿」を模索しながら活動中。
URL:http://www.yocuta.com/
E-mail:yokonemoto@hotmail.com
 
ウクライナから列車でクロアチアに入り、船でアドリア海を渡ってイタリアの港町アンコーナーへ。回送列車に乗せてもらったり、とワイワイやりながらヴェネツィアまで辿り着いた。いやぁそれにしても……ここは名だたる観光地。これまでがこれまでなだけに物価の高さが身に染みるのだ。。。

イタリア料理を堪能したところで、一緒にプチ放浪をしていた男性陣2人はとうとう資金が尽きたか……ここでお別れ。機上の人となるべくミラノへと旅立った。ここから先は、か弱き乙女!!の2人旅なの、で、ございます。旅もいよいよ終盤。ヴェネツィアから、私の最終目的地オーストリア・ウィーン行きの夜行列車に乗る。

第1の乱入者/酔っ払い

列車は空いていて、2等で定員6名のコンパートメントには私たち2人だけ。「わーぃ! 横になれるねーラッキー!!」と言いながら相棒は爆睡モード。
さてさて、と私も横になって夢うつつの深夜0時過ぎ、途中の駅から乗り込んできた一団は両サイドのコンパートメントで大騒ぎ。若い男性がもの凄い勢いで私たちのコンパートメントの扉を開け、
……なんやかやっっ!! 座っていいか?……てなことだと思うが……
酒の匂いもするし、無礼だし、で、寝起きで不機嫌な私はもちろん断わる。ところが今度は絡んでくるし、しつこいのなんの。そのあとも何度となく乱暴に扉を開けては閉めるを繰り返すわ、隣から壁は叩きまくるわ。
……それでも相棒はすやすやお休みだわ…(−−!)
私は起きてないとヤバイかな……。でもそのうち、大騒ぎしていた連中もちょっと静かになってきて、気がついたら私もうつらうつら。

第2の乱入者/謎の集団

お次の記憶は、中年男性のどアップがオープニング。
扉を開ける「ガシャンッ」という音で目を開けたら、目の前にはもうすでに顔があった。驚く間もなく、
「ウィーンまで行くのか?」
と聞かれ、
「そうだ」
と答えるのを聞くか聞かないうちに廊下に向かって、
「よし、入れ」
とホイスパーで叫ぶ男。その途端、一斉に4人の大荷物を抱えた男女がなだれ込んできた。棚から足元からすばやく荷物を押し込んだかと思うと扉とカーテンを閉めてみんな息を殺してる。どうやら最初の男がリーダーらしい。

ほかのメンバーに小声で指図をしながら、彼はカーテンの隙間から外の気配を伺ってる。
……おいおい、である。
定員オーバーのコンパートメントには7人の人間と大荷物とでえっらいことになっていた。加えて犬猫のようなすさまじい臭気。

列車が動き出した途端、安堵の空気が流れて、紅一点のおばさまは十字を切りながら、
「ドアムネ…(女神様)」
とつぶやく。
……な・な・何なんだぁ
……この人たちに何が起こったのだぁ
……犯罪者なのかぁ
……何に追われておるのだ??
……というか……この人たちってルーマニア語じゃん。
あまりに呆気にとられてて、意識してなかった。

リーダーが「ほかのやつらを探して連れてくる」と出て行く。いやいやちょっと待てっ!! ここにさらに詰め込むつもりなのかいなっ!! 腹が立つような気持ちもあったのだけど、残された人たちが申し訳なさそうに縮こまってるのを見て、追い出す気にはちょっとなれなかった。それに事の成り行きを見てみたくて彼らの話をじっと聞いてた。

罵声飛び交う国境越え

ルーマニアでよく見かけたジプシーではなさそうだ。まぁ、一族郎党で夜逃げってとこかな。
ほかのメンバーはほかの部屋に落ち着いたらしく、リーダーはひとりで戻ってきた。でも居場所はないので通路で煙草なぞふかしてる。

さてさて国境が近づいてきた。まずはイタリア側のコントローラーが回ってくる。案の定、彼らが持ってたのはひとり分の、それもミラノ行きのチケットだけ。もめるのは当たり前。交渉するのはリーダーのみで、ほかの人たちは怒鳴られてもじっと縮こまってひと言も喋らない。

オーストリア側のコントローラーも回ってくる。
コントローラー「お前はイタリア人だろっ」
リーダー「いやっ俺たちはスペイン人だっ」
コントローラー「いいやっイタリア人だっ」
……いや…だからルーマニア人だって
と心の中でつぶやくわたし。

ところが「パスポートを見せろ」と言われると、みんな素直にポケットから出してコントローラーたちに見せる。もちろんルーマニアのパスポート。
……何のための嘘なんだぁ
……そんな簡単にバレちゃぁ意味ないじゃん……
オーストリア側のコントローラーはだんだんエキサイト。私たち2人にも怒鳴り出して、イタリア側のコントローラーに「彼女たちは別だから」と止められたり。

それまで「次の駅で降りるか、金払えっ」などなどの罵声にじっと耐えていたおばさまも「そんなこといったって、お金なんかないわよぉぉ」とか細い声で逆切れし出すし……何だかもうぐちゃぐちゃ。
のんびりいけると思った夜行列車は、乱入者たちのおかげでけっきょく一睡もできず。

無賃乗車の人たちと無事ウィーンに

この話を知り合いのオーストリア人男性に話したら、
「やつらルーマニア人はこの国を金(きん)の国みたいに思って入り込んでくるんだっ」
「あいつらがこの国でたくさん犯罪を犯してる」
などなどぼろくそに言うのだなぁ。なんでも彼のおじいさんはナチスだったらしいが……。

まぁそれはさておき、ウィーンのようなきらびやかな観光都市と比べれば、ルーマニアはそりゃぁもう田舎で汚くて、と言うのも分からないわけじゃない。でも……なぁ……。
張り切ってみんなを仕切ってるリーダーはどこか抜けてるし、ほかの人たちも気が弱そうにただただ縮こまってる。それでも、彼ら一行はちゃっかりウィーンまで辿り着いてて……逞しいんだよなぁ。

そんな彼らに、私はやっぱり……駅のホームで、
「ラ・レベデーレ(さようなら)」
とルーマニア語でひと言だけ声をかけた。
……がんばれよっ…って心持ち(^^!)


 
 
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ヴェネツィアの細い路地をうろうろしてて見つけたインターフォン。おちゃめだったので撮影
 
ヴェネツィア近郊にある島々を連絡船で回ってみた、トルッチェロ島からの帰り道。7年前購入の36万画素のデジカメだけどけっこうきれいに撮れたでござる
 
乗り物乗ったら爆睡。頼もしい相棒・森尾舞ちゃん。彼女はこのあとベルリンへ1年間の演劇留学